ここ数年は、年100冊ペースで読み進めていまして、今年もたくさんの本との出会いがありました。
このnoteでは、読んだことのある【2023年に発行された本】の中から、個人的に保育者へおすすめしたい本を8冊選びました。
- 1.『保育の中の子どもの声』
- 2.『子どもの遊びを考える-「いいこと思いついた!」から見えてくること-』
- 3.『子どもの傷つきやすいこころの守り方』
- 4.『保育者の身体的・状況的専門性-保育実践のダイナミック・プロセスの中で発現する専門性とは-』
- 5.『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』
- 6.『教育観を磨く-子どもが輝く学校をめぐる旅-』
- 7.『わかりやすい省察的実践-実践・学び・研究をつなぐために-』
- 8.『もざいく-描くこと、言葉、素材が紡ぐ物語り-』
- おわりに
1.『保育の中の子どもの声』
子どもの中に希望を育てることを、保育実践の大切な課題に位置付けた
10月20日に発行されて、もうボロボロになるほど読み込んでいます。
加藤繁美先生の書いた本をこれまで何冊も何度も読み返してきましたが、これまで書かれてきたことがぎゅっとまとまってさらに洗練されたような濃密な一冊でした。
この本で、「子どもの声」を聴きとる意味は、①「発達する主体の声」を聴きとる視点、②「1人の人間の声」として尊重する視点、大きく2つの視点で語られてきたなかで、3つ目の視点として子どもを1人の「市民」として位置付ける「1人の市民の声」も「子どもの声」として耳を傾けることを現代の課題としています。
ただ、集団で生活する集団保育の中で3つの声を統合して聴くためには克服すべき課題があり、それは大きく4点あるといいます。
- 子どもの「声」と保育者の「願い」との間に生じる対立関係への対応
- 保育における「自由」の問題
- 多様性を重視する思想と「子どもの声」の関係
- これまで保育実践の前提と考えられてきた「子ども理解」の問い直し
「子ども理解の問い直し」なんかはぐさっと刺さってきましたし、実践と重なる部分や活かせる内容も多く、個人的には今年どころか長くおすすめしたい一冊になりました。
「対話」そのものが与える影響、「子ども主体の保育」の捉え方による危険性など、現代とこれからの保育が詰まっています。
「希望の保育実践論1」として発行された「子どもの声」。一冊目は、「子ども観」の問い直しと、新たな「保育者ー子ども関係論」の提案でした。今後、「カリキュラム編」と「保育者編」と続刊が出るということで心待ちにしています。
2.『子どもの遊びを考える-「いいこと思いついた!」から見えてくること-』
佐伯先生が指導していた矢野勇樹さんの修士論文がベースになっているのが特徴の一冊です。
「遊びは自発的な活動である」という命題では、もれてしまっている、すくいとれていない現象が「いいこと思いつく」であり、そこに課題があると言えるのではないでしょうか。「いいこと思いつく」あの瞬間、おもしろさが花開くあの瞬間を遊びとは言えないなんておかしいのです。そのおかしさを考え、この不十分と言える遊びの捉え方の新たな展望を拓くのが本稿の目的です。
自発的とか、自主性とか、主体的にとか、もちろん大事なのだが、その視点が私たちの視野を狭くすることがある。
子どもたちの生きる世界をみようとするときに大切な、能動にも受動にもはっきりとは分けられない「中間的な意味(中動態)」への理解が深まる一冊でもあります。(掴むのがすごく難しい概念なので、粘り強く、時に脱力しながら向き合うテーマだと思います。)
この本を読んだら日常にあふれる子どもたちの「いいこと思いついた!」の瞬間がもっともっとゆたかなに感じられます。
私にとっては、保育のわくわくが増した一冊です。
また、養成校の学生のエピソードもあり、講義でも活用して、学生と一緒に考えたテーマもありました。
3.『子どもの傷つきやすいこころの守り方』
こうしたら子どもが育つ!魔法の言葉!のようなハウツーではないにも関わらず、現実にも活きてくる良書でした。
主に保護者向けに書かれていますが、私が園長を務める保育園で大切にしていること、実践していることが散りばめられていて、方向性の確認や新しく入る職員にも薦めたい一冊だと思いました。
人生が長期戦であるように、子育ても長期戦です。ときに子どもを衝突したり、完璧な子育てをしている(ように見える)インフルエンサーと自分を比べて、親として自信を失ったりすることがあるかもしれません。そんなときには、あなたが「子どもを一生懸命に支えている」という事実を思い出してほしいのです。あなたの日々のがんばりは、間違いなく子どもの力となっています。また、それ以上に、あなたの存在そのものが、子どもの力となっているのです。どうかその事実を頭の片隅に置いておいてください。(「おわりに」より)
4.『保育者の身体的・状況的専門性-保育実践のダイナミック・プロセスの中で発現する専門性とは-』
過去の研鑽が現代につながっていくなかでの「保育者の専門性とは何か?」という探究・考察がここまでかというほど、この一冊に詰まっています。
保育者の専門性について学びたいなら、この本で十分なほどです。引用文献がまた素晴らしいので、もっと深く広く学びたいときは、そちらも読んでいくとより保育者の専門性の学びがおもしろくなっていくと思います。
正直、専門書に読み慣れていない方にとっては、読むのが大変で、途中で挫折してしまうような内容かもしれません。
それでもおすすめするほどの充実した内容です。
特に管理職の方は、辞書のような感覚で持っていると何かと役立つと思います。
5.『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』
「マルトリートメント」という言葉は、国際社会では広い意味での子どもへの不適切な関わり全てを意味します。
昨年(2022年)に発行された「教室マルトリートメント(川上康則|東洋館出版社)」と「〈叱る依存〉がとまらない(村中直人|紀伊国屋書店)」も何度も読んでいたので、この本は発売前から楽しみにしていました。
今もなお「叱れない教師は力がない」「そんなことでは子どもたちからナメられる」「あの先生は甘すぎる」「そこで厳しくしないから子どもが付け上がるんだ」などと発言する教師がいます。不適切な関わりは、職員室の会話などを通して築き上げられた指導観の延長線上にあります。(中略)教師側の視点だけで設定された「ブレない指導」ほど危険なものはありません。なぜなら、子どもたちはそこに居場所を感じられず、かといって逃げ場もないからです。
不適切な関わりの背景には、必ずと言ってよいほど、教師側の「自分の指導は間違っていない」という思い込みと、「ここまで来たら引くことはできない」という貫く必要もない余計なプライドが潜んでいます。(「おわりに」より)
私たち保育者にもまったく同じことが言えると思います。
武田信子さんの帯コメントにある「試練を先生がわざわざ与えなくてもいい」という言葉は、私も保育園で子どもたちと生活していて常々感じていることでした。
子どもたちは自分の人生(日々の生活)のなかで試練を自然と体験したり、自分で試練に飛び込んだりしています。そのプロセスをとらえること、安心安全に挑戦したり失敗したりできる環境をつくることが、保育(養護と教育の一体的展開)の営みであるのだと思っています。
6.『教育観を磨く-子どもが輝く学校をめぐる旅-』
私が研修や講義で扱うテーマに「個人やチームの〈子ども観と保育観〉と向き合う実践」があるので、興味深く読ませてもらいました。
「これまでの常識を覆す、4つの学校をめぐる旅」とあるのですが、学校の常識を覆すことは、保育の本質的な部分を目指すことに近いなと感じました。
これは10年ほど前に高校教育に関わったときにも感じたことなのですが、学校教育は目指す未来は、とても「保育的」だということ。
教師が、保育の本質を学ぶことは、小中高大の教育を現代と未来に合わせてアップデートすることになるんだと思います。就学前の環境に、就学後に必要なものがあふれているのです。
一つの教育観を無批判に信奉し、無反省な態度でいたら、目の前の生きた子どもたちと関わる際に判断を誤る可能性だってある。知らず知らずに前提としている自分の眼差しそのものを、特徴あふれる実践に触れて改めて問い直し、深めていけるよう、さあ、出発しましょう。目も眩むような、まだ見ぬ教育の旅へ。(「はじめに」より)
7.『わかりやすい省察的実践-実践・学び・研究をつなぐために-』
看護職・教育職・福祉職は対人関係専門職
保育士ももちろん対人関係専門職です。
対人関係専門職の学びは、専門学校・短期大学や大学などの養成段階だけでは終わらない。専門職に就いてからも、私たちは自分の実践をめぐる個人の学び、勤務先や専門職団体が用意する研修プログラムで学んでいる。
本書では、対人関係専門職の学びをとらえる視点として3つの論点を取り上げています。
- 「省察的実践者」として、次の実践の改善に生かす学びが求められるという視点
- 「成人学習者」として、子どもの学びとは異なる視点
- 人びとの学びを支援する「学習支援者」としてとらえ直す視点
省察や振り返りはただ取り組んでも機能しません。実践につながるような省察に取り組んでいくためにも「省察」そのものを学ぶことも大切だと思います。
8.『もざいく-描くこと、言葉、素材が紡ぐ物語り-』
レッジョエミリア関連の書籍もいくつか持っていますが、これは資料としても手元に置いておきたい一冊として紹介します。
読んでいると(この本に関しては「読む」を超えた体験ですが、)自園でも「探求・探究」を軸に保育を営んでいるため、向かっている方向、取り組んでいることを肯定してもらえるような気持ちになります。
12月に発行された『アトリエからはじまる「探究」(中央法規)』も一緒に持っていると、レッジョエミリアからの学びを日本で活かそうとするときのヒントがもらえるかもしれません。
おわりに
今回選んだ8冊を振り返ると、「大人」が自分の価値観、実践と向き合ったり、学び続ける姿勢が共通したテーマとしてあることに気づきました。
2018年より保育園の立ち上げを始めて、開園してからはもうすぐ3年が経ちますが、一貫して取り組んできたのが「学び続ける保育チーム」づくりでした。
それが、子どもにとって好影響のある環境づくりにつながることを実感しています。
もちろん「学び続ける保育チーム」でいることは容易ではありません。
ただ自分たちで考えるのでなく、本や論文、他園の実践からも学びながら、自分やチームの学びを深めて、実践に活かしていく。そんな営みが大変だけども甲斐があり、ゆたかさのある毎日だなと感じています。
2023年発行の本は、他にもたくさんの素敵な出会いがありました。
ここで紹介しきれなかったものは、Twitterなどで発信できたらと思います。
2024年はどんな本が発行されていくのか、楽しみです。
Hoiku is joy. Hoiku is life. Hoiku is future.
保育の旅はつづく。