最終更新:2023年10月17日
はじめに
2022年秋頃から「保育士の虐待・不適切な関わり」に関する報道が続き、注目が集まっていますね。
新たな事案が次々出てくるようにも感じますが、これまですでに現場から上がっていた声をようやく自治体が対応するようになった現れなんだと思います。
これまで、不適切な関わりをなくしていこうと尽力してきた側の保育者が現場を去り、不適切な関わりをする保育者が残り続け、野放しになってきた事例も少なからずあるのではないでしょうか。
私自身も過去にそういった現場に介入して感じたことは、自治体や本部は証拠がないと対応できない、簡単には動けない、現場での解決を求めるなど、情報を提供してもなかなか動いてもらえないということでした。
状態にもよりますが、外部に助けを求める段階だと、中長期的に粘り強いタフな取り組みが必要になります。しかし、現場の人員だけでそれを遂行するのは困難を極めます。
本来なら痛ましい事件をきっかけに動くのではなく、子どもの命が奪われたり子どもの心や身体が傷つけられてから調査を始めるのではなくて、もっとその前に子どもを守ろうと現場から上がっているたくさんの声に耳を傾けてほしいです。加害する側が守られるような対応はもうやめてほしいのです。
また、個人の問題と構造の問題はどちらかではなくて、一線を越える場合にはどちらの要因も絡み合って起こっているのだと思います。
あくまで一例ですが、虐待や不適切な行為が起こる背景は以下のようなものが挙げられます。
・そもそも対人援助職への適性がない
・子どもの人権を擁護するためのスキル、実力不足
・支配、管理、コントロールのテクニックに依存している
・学び続ける風土がない
・構造的な問題(配置、労働環境、組織のあり方など)
いかなる理由があっても超えてはならない一線を越えるとなると、そもそもの適正から見ていかなければなりません。
不適切な関わりを指摘されたときに、
「しつけのつもりだった」
「指導のつもりだった」
「子どもは楽しそうだからいいと思った」
「こんなに大ごとになるような関わりだと思っていなかった」
など、どこからが不適切な関わりや虐待になるかが認識できていないケースが多いように感じています。倫理観と知識の両面が私たち保育者に必要なことが分かります。
一方で大切なのが個人の問題で終わらせようとせずに、構造的な問題にも目を向けていく必要もあります。保育士としての資質はあっても環境要因で不適切な関わりが生まれるケースもあるからです。
個人か構造かどちらかではなく、多様な視点から問題を捉え、課題の本質を見出し、子どもにとって望ましい環境が続いていくようにそれぞれの現場での最善を尽くしていける状況が必要なんだと思います。
日々の保育を営んでいくうえで、認識や関係性は放っておくと固定化していきます。
常に揺れ動き、移ろう「人と人が集まる場」では、振り返りや対話の場、学びで認識や関係性を「ほぐす」営みは、どの現場でも共通して必要になります。
組織において「課題」がない日はありません。
どんな状態でも振り返って次につなげるプロセスが「今」を豊かにしていきます。
個人の想いや考えとともに、情報や知識が前進のヒントになる場面がたくさんありますので、今回は自園や自身の「保育」を振り返るときに参考になりそうなリストを作ってみました。
前置きが長くなりましたが、何かの折にお役立てできれば幸いです。
1.チェックリスト
【人権擁護のためのセルフチェックリスト|全国保育士会】
https://www.z-hoikushikai.com/about/siryobox/book/checklist.pdf
【「人権擁護のためのセルフチェックリスト」を用いた保育の振り返り とりまとめ|全国保育士会(2023年5月)】
https://www.z-hoikushikai.com/new/new.php?id=97
【よりよい保育のためのチェックリスト〜人権擁護のために〜|横浜市こども青少年局】
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kosodate/jikotaio/hoiku.files/0119_20211213.pdf
【保育所における人権擁護等に関するチェックリスト|仙台市子供未来局】
https://www.city.sendai.jp/uneshien-kikaku/documents/hoikusyo_jinnkenyougo_tyekkurisuto.pdf
2.子どもの人権・権利
【子どもの「じんけん」まるわかり|ぎょうせい】
【子どもの権利条約ハンドブック|自由国民社】
【子どもの権利条約|ユニセフ】
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html
子どもの権利条約ポスター
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig/pdf/CRC30icons_JPN.pdf?220907
子どもの権利条約カードブック
https://www.unicef.or.jp/kodomo/osirase/2018/07_23.html
3.保育の基本・原則
【保育所保育指針解説|厚生労働省】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202211.pdf
【子どもを中心に保育の実践を考える|厚生労働省】
https://www.mhlw.go.jp/content/000521634.pdf
【保育者のための自己評価チェックリスト|萌文書林】
【質の高い保育のために、園の中で保育者がすること10|エデュカーレ】
http://ikuji-hoiku.net/educare_wp/staffblog/1952.html
4.評価スケール
【「保育プロセスの質」評価スケール 乳幼児期の「ともに考え、深めつづけること」と「情緒的な安定・安心」を捉えるために|明石書店】
5.環境を見つめ直す上で重要な情報
【死を招いた保育|ひとなる書房】
【教室マルトリートメント|東洋館出版社】
【不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」計画|東洋館出版社】
【〈叱る依存〉がとまらない|紀伊國屋書店】
【言葉かけから見直す「不適切な保育」脱却のススメ|中央法規】
おわりに
追加してほしいものがありましたら、コメント等でお知らせしてもらえたらと思います。
保育士として「しない」ことにもとことん向き合ったうえで、豊かな日常を子どもたちと保護者と同僚と一緒に歩んでいける環境をつくっていきましょう。私もしっかり取り組んでいきます。
以下に、これまで書いた「不適切な関わり」と「子ども主体の保育」について書いた記事をまとめておきます。
保育に調教のスキルは不適切。 - 子どもの今と未来をゆたかに
保育における「甘くみられないように・なめられないように」の質 - 子どもの今と未来をゆたかに
【節分】子どもを脅しで動かす。鬼よりこわい保育士。 - 子どもの今と未来をゆたかに
#48 不適切でなければ適切なのか。適切でなければすべて不適切か。|石川 聖(Ishikawa Satoshi)
#52 子ども主体の保育の誤謬 〈前編〉|石川 聖(Ishikawa Satoshi)